表紙

絶対に付き合ってない!」と言い張る俺らのラブコメ漫才

🏠 トップページ 📚 作品一覧
AI Generated Light Novel | 2026-03-19_213854 | Powered by gemini-3.1-pro-preview

Promotional Video

タイトル:『俺たち、絶対に付き合ってないからな!~最高の相棒(ヒロイン)と送る、イチャイチャ度1000%の勘違い青春ラブコメ~』


【第1章】衝突事故から始まる、運命のダチ認定

「いっけねー、遅刻遅刻ぅ!」
なんていう、化石のようなセリフを心の中で叫びながら、俺――相沢湊(あいざわみなと)は春の住宅街を猛ダッシュしていた。
今日は記念すべき高校の入学式だというのに、目覚まし時計の野郎が反抗期を迎えたせいで、見事に寝坊をかましたのだ。
口には食パン……ではなく、コンビニで買った焼きそばパンをくわえている。なぜ焼きそばパンかというと、俺が重度の炭水化物ジャンキーだからだ。

「くそっ、この角を曲がれば学校の正門が……!」
俺はアスファルトを蹴り上げ、見通しの悪い交差点へと飛び込んだ。
その瞬間。

「どわぁっ!?」
「ぎゃんっ!?」

出会いがしらに、強烈な衝撃。
俺の体は宙を舞い、そのまま無様に地面へと転がった。
「い、痛ぇ……なんだよ、ダンプカーにでも轢かれたか?」
頭をさすりながら身を起こすと、目の前には一人の女子生徒が尻餅をついていた。
さらさらのセミロングの髪。制服の着こなしはだらしないが、黙っていれば息を呑むほどの美少女だ。だが、その顔は怒りで鬼のように歪んでいた。
そして、彼女の足元には――無惨にひしゃげたパンが落ちていた。

「あああああ! 私の、私のお好み焼きパンがあああ!」
美少女は、地面のパンを抱きしめて絶叫した。
「……は? お好み焼きパン?」
「そうだよ! 購買でラス一だったのを死に物狂いでゲットした私の朝飯が! ペしゃんこじゃないか! どうしてくれるんだよこの焼きそば頭!」
「誰が焼きそば頭だ! つーか、お前のせいで俺の焼きそばパンもアスファルトとキスしてんだよ! 見ろ、この無惨に散らばった紅生姜を!」
「知るか! だいたい朝から焼きそばパンくわえて走るとか、昭和のラブコメかよ! しかも炭水化物に炭水化物を挟むな!」
「お好み焼きパンも同じだろうが! 粉もんばっかりじゃねーか!」

俺の魂のツッコミが炸裂した瞬間、彼女はハッとして顔を上げた。
「……お前、いいツッコミするじゃん」
「……お前こそ、その顔面偏差値で全力のボケをかますの、才能だろ」
俺たちは、地面に散らばった焼きそばとお好み焼きを挟んで、なぜかニヤリと笑い合った。
「私、星宮結衣(ほしみやゆい)。よろしくな、焼きそば」
「相沢湊だ。よろしく、粉もん女」
「誰が粉もんだ! ソースの匂いさせやがって!」
「お互い様だろうが!」

こうして、俺と結衣の最悪で最高の出会いは幕を開けた。
その後、俺たちは入学式をサボりかけるギリギリの時間まで、どちらが購買まで早く着くかダッシュで勝負し、見事に昼飯のパンを賭けたジャンケンで熱いバトルを繰り広げた。

奇跡的なことに、俺と結衣は同じクラス、しかも隣の席だった。
「お、さっきの粉もん女じゃねーか」
「チッ、またお前か焼きそば。腐れ縁ってやつかよ」
教室で顔を合わせた途端、息をするように軽口を叩き合う俺たち。
そんな俺たちを見て、周囲のクラスメイトたちはヒソヒソと囁き合っていた。
『ねえ、あの子たち初日なのにめっちゃ仲良くない?』
『もう付き合ってるのかな? 美男美女カップルじゃん』

俺と結衣は、同時に振り返り、全力で叫んだ。
「「いやいや、こいつとはただのダチだから!!」」

「私がこんなソース臭い男と付き合うわけないだろ!」
「俺だってこんな中身が小学生男子みたいな女、願い下げだっつーの! 俺たちは戦友(ズッ友)ってやつだ!」
「そうそう! 一緒にゲーセンで格ゲーのランクを上げる大事な相棒なだけ!」

周囲はポカンとしていたが、俺たちにとってはこれが真実だった。
恋愛感情? そんな甘っちょろいものは1ミリもない。
俺と結衣は、男同士の最高の友情のような、絶対的な信頼関係で結ばれた『親友』なのだから。
……え? 男女の友情は成立しない?
いやいや、俺たちに限ってそれはない。絶対にない。
俺たちの辞書に「恋愛」という文字はないのだ!


【第2章】息をするように漫才をする俺たち

季節は巡り、高2の春。
俺と結衣が出会ってから、早くも1年が経過していた。
クラス替えの掲示板の前で、俺は自分の名前のすぐ下に「星宮結衣」の文字を見つけ、盛大なため息をついた。
「マジかよ……また同じクラスかよ、粉もん女」
「誰が粉もんだ! こっちのセリフだわ、この万年ツッコミマシーンが!」
背後からドロップキック気味に飛びかかってきた結衣を、俺は慣れた手つきでひらりと躱す。
「危ねぇな! 朝っぱらから元気すぎるだろ。つーかお前、なんだそのTシャツ」
結衣のブレザーの下には、なぜか筆文字でデカデカと『働いたら負け』と書かれたTシャツが自己主張していた。
「ふっ、いいだろう。昨日の夜、ネット通販でポチった勝負服だ」
「どこで勝負する気だよ! しかも制服の下に着るな、ダサい通り越して痛いぞ!」
「痛いとはなんだ! これは私のアイデンティティだ! ……あ、そういえば湊、今日の数学の課題やった?」
「やったけど。お前、まさか……」
結衣は完璧なドヤ顔で、親指をビシッと立てた。
「写・さ・せ・て・く・れ!」
「堂々と言うな! お前、昨日何してたんだよ!」
「深夜のゲームに決まってんだろ! FPSのランク戦が私を呼んでいたんだ!」
「お前な……一応美少女なんだから、少しは清楚という言葉を辞書で引けよ」
「はっ、私の美貌に惚れたか相沢湊!」
「1ミリも! むしろ顔面偏差値の無駄遣いすぎて泣けてくるわ!」
「ひどいっ! 私のガラスのハートが砕け散った!」
「強化ガラスの間違いだろ!」

教室に入るなり、いつものように息の合った漫才を繰り広げる俺たち。
席に着くと、前の席の委員長タイプの女子、佐々木が呆れたようにため息をついた。
「相沢くん、星宮さん。朝から夫婦漫才はよそでやってくれない? 暑苦しいんだけど」
「だから違うって! こいつはただの悪友!」
「そうそう! 夫婦とか勘弁してよ佐々木ちゃん。私がこんな甲斐性のない男の嫁になるとか、罰ゲームにもほどがある!」
「甲斐性がないとはなんだ! お前みたいな大食い女を養えるのは、石油王くらいしかいねぇよ!」
「なんだと!? 私の胃袋は宇宙だぞ!」
「自慢にならねぇ!」

昼休みになれば、俺たちのバトルはさらに白熱する。
机をくっつけて弁当を広げるのが、いつの間にか俺たちの日常になっていた。
「おっ、今日の湊の弁当、唐揚げ入ってんじゃん。よこせ」
結衣の箸が、音速を超えて俺の弁当箱に襲いかかる。
「甘いな!」
カキンッ!
俺の箸が、結衣の箸を空中で弾き飛ばした。
「ちぃっ……防御力が上がっているだと?」
「お前が毎日毎日俺のおかずを狙ってくるから、こっちも迎撃スキルを磨いたんだよ! つーか、お前の弁当、卵焼きばっかりじゃねーか!」
「お母さんが寝坊したんだよ! だから私にタンパク質を寄付しろ!」
「卵もタンパク質だろうが! ほら、このブロッコリーならくれてやる」
「野菜はいらん! 肉をよこせ、肉を!」

ギャーギャーと騒ぎながら、結局俺は唐揚げを一つ結衣の弁当箱に放り込んでやる。
「……へへっ、サンキュ。湊はなんだかんだ優しいよなー。お母さんみたい」
「誰がオカンだ! 次は生姜焼き奪うからな!」
「させん!」

放課後は、二人で駅前のゲーセンに寄り道するのが日課だ。
格闘ゲームの筐体に向かい合い、無言でスティックを弾く。
「っしゃあああ! 私の勝ちだオラァ!」
「くそっ、いまのハメ技だろ! もう一回だ!」
「何度やっても結果は同じだぜ、相棒!」

帰り道、夕日に照らされる川沿いの道を二人で歩く。
結衣は先ほど買った肉まんを頬張りながら、上機嫌で鼻歌を歌っていた。
夕日に染まる横顔は、長いまつ毛に影が落ちて、ドキッとするほど綺麗だった。
黙っていれば。本当に、黙っていれば。
「……なんだよ、私の顔にソースでもついてるか?」
肉まんをモグモグさせながら、結衣が不思議そうに首を傾げる。
「いや……お前、中身がアレじゃなきゃ、マジでモテるのになと思って」
「はっはー! 私はモテモテだぞ? ネットのフレンドからは『イケメン兄貴』って呼ばれてるからな!」
「それ性別間違えられてるだけだろうが!」
「細かいことは気にするな! ほら、肉まん一口食うか?」
「お、マジで? いただくわ」
俺は結衣が差し出した肉まんにかぶりつく。
「あ、熱っ! 中の肉汁が!」
「あはは! ダッサ! 湊、口の周りベトベトだぞ!」

結衣が笑いながら、俺の口元を自分の袖でゴシゴシと拭いてくる。
「おい、服が汚れるだろ!」
「いいんだよ、どうせ洗うし。ほら、綺麗になった。私ってば面倒見のいい親友だろ?」
「……はいはい、ありがとな」

周囲から見れば、これが間接キスだの、イチャイチャだのに見えるらしい。
だが、俺たちにとっては、ただの「男友達同士のノリ」の延長でしかない。
性別なんて関係ない。俺とこいつは、最高に気が合う親友なのだ。
今のところは、まだ。


【第3章】お泊まり会で背中を預け合う(物理)

夏休み真っ只中の、うだるように暑い日の午後。
俺が自室でパンイチになりながら扇風機の前で「あ゛あ゛あ゛」と宇宙人の真似をしていると、唐突に部屋のドアがバンッ! と蹴り破られる勢いで開いた。

「暑い! 死ぬ! 湊、お前の家のクーラーをよこせ!!」
そこに立っていたのは、汗だくで髪を顔に張り付かせた結衣だった。
ショートパンツにダボダボのTシャツという、非常に無防備な格好である。
「お前な……人の家に上がり込む時はインターホン鳴らせって、何回言えば覚えるんだよ!」
「鳴らしたよ! でも湊のママンが『あら結衣ちゃん、湊なら部屋よー、勝手に入ってー』って言ったんだもん! それよりクーラー! 私の部屋のクーラーがぶっ壊れたんだよ! 地獄だ! ここは天国か!」
結衣は俺のベッドにダイブし、そのままクーラーの冷風を全身に浴びて「ひゃーっ」と変な声を上げた。
「親が旅行中でいないのに、業者が来るのは明日の朝だって言うんだよ……私、このままじゃ熱中症で干物になっちまう」
「お前が干物になったら、出汁も出なさそうだな」
「やかましい! というわけで、今日は一晩お前の部屋に泊めてもらうからな! 親友の命がかかってんだ、断るとは言わせねぇぞ!」
「……はぁ。お前の親も、よく年頃の男の家に娘を泊まらせるの許可したな」
「『湊くんのところなら安心ねぇ』だってさ。私もそう思う。お前なら、私が全裸で寝てても手を出さない自信がある!」
「どんな信頼のされ方だよ! 泣くぞ俺!」

かくして、結衣との突発的お泊まり会が始まった。
夜になり、夕飯をデリバリーのピザで済ませた俺たちは、部屋を真っ暗にしてホラー映画のDVDを再生した。
「お前、ホラー苦手なのになんでこれ借りてきたんだよ」
「夏といえばホラーだろうが! 涼しくなるためには恐怖が必要なんだよ!」
結衣は腕組みをして強がっていたが、映画が始まって10分で俺の背中に隠れ始めた。
画面の中で、血まみれの幽霊が突然「ギャアアアア!」と叫びながら飛び出してくる。
「うわああああああ!! 出たぁぁぁ!! 湊、盾になれ!」
「お前が言い出したんだろうが! 痛い痛い、背中の肉をつねるな!」
結衣は俺の背中にぴたりと張り付き、Tシャツの裾をギュッと握りしめている。
密着する背中から、結衣の体温が伝わってくる。
ふと鼻をかすめる、甘いシャンプーの匂い。
そして、背中に押し付けられる、柔らかい感触。
「……おい結衣、お前、もうちょっと離れろ。暑い」
「無理! 無理無理! 今後ろを振り向いたら呪われる! 湊、お前は私の最強の防壁だ、責任を持って私を守れ!」
「都合のいい時だけ親友を盾にするな!」

文句を言いながらも、俺は結衣を振り払えなかった。
普段はガサツで男勝りな結衣だが、こうして震えているのを見ると、年相応の女の子なんだと嫌でも実感させられる。
「……お前、一応女なんだから、男の部屋で無防備すぎるだろ」
俺がポツリとこぼすと、結衣は映画から目を逸らしたまま、鼻で笑った。
「は? お前相手に? 私たちは最高のダチだろうが。性別とか超越してんだよ、私たちは」
「……そうだけどよ」
「なんだよ、まさかお前、私相手にドキドキしてんのかー?」
結衣がからかうように、俺の耳元で囁く。
その吐息が耳にかかり、俺はビクッと肩を震わせた。
「ばっ、バカ言ってんじゃねーよ! お前みたいな色気ゼロのゴリラにドキドキするわけないだろ!」
「誰がゴリラだ! ウホッて言うぞ!」
「言わなくていいわ!」

映画が終わり、寝る時間になった。
俺のベッドの横の床に布団を敷き、結衣がそこに潜り込む。俺はベッドに横になった。
部屋の明かりを消すと、クーラーの静かな駆動音だけが響く。
「……なぁ、湊」
暗闇の中、結衣の声が静かに響いた。
「ん?」
「お前といると、ホント飽きないわ。バカなことばっかりやってるけど、それが一番楽しい」
「……なんだよ、急に気持ち悪いな」
「うるせー、素直に褒めてやってんだから受け取っとけ。お前は私の最高の相棒だよ」
結衣の言葉に、俺の胸の奥が少しだけチクッとした。
最高の相棒。最高の親友。
それは、俺たちがずっと共有してきた絶対的な関係だ。
「……おう。俺にとっても、お前は最高のダチだよ」
「へへっ、だろ? ……おやすみ、湊」
「おやすみ、結衣」

結衣の寝息が聞こえ始める。
俺は天井を見つめたまま、なかなか寝付けなかった。
結衣のシャンプーの匂いが、まだ部屋に残っている気がした。
「こいつ、ホントにただの親友、だよな……?」
暗闇の中で呟いた言葉は、誰にも届くことなく、夏の夜の空気に溶けていった。
俺はこの時、自分の中に芽生え始めた『何か』から、必死に目を逸らそうとしていた。


【第4章】親友の隣に見知らぬ男がいると、なぜか胸がざわつく件

秋の気配が深まり、高校は文化祭の準備期間に突入していた。
放課後の教室は、段ボールや絵の具、工具が散乱し、お祭り騒ぎの熱気に包まれている。
俺たち2年B組の出し物は「お化け屋敷カフェ」という、カオス極まりないものに決まっていた。

「おい湊! そこのガムテープ取ってくれ!」
「はいはい。お前、顔に赤い絵の具ついてるぞ。ホントにお化けみたいだな」
「うるさい! これは血糊のテストだ! 私のリアルなゾンビメイクに震え上がるがいい!」
結衣は段ボールでお墓の小道具を作りながら、ケラケラと笑っていた。
相変わらずのバカ騒ぎ。いつも通りの、平和な日常だ。

だが、その平穏は、突然現れた闖入者によって破られた。
「星宮さーん、ちょっといいかな?」
教室の入り口から声をかけてきたのは、3年生の先輩だった。
サッカー部のエースで、学校中の女子からキャーキャー言われている、いわゆる「爽やかイケメン」というやつだ。
「あ、藤原先輩! お疲れ様です! どうしたんですか?」
結衣が立ち上がり、パタパタと入り口へ走っていく。
俺はガムテープを手にしたまま、その様子を遠巻きに眺めていた。

「実はさ、文化祭の『ベストカップル・コンテスト』のことなんだけど。俺、星宮さんと一緒に出たいなって思ってさ」
藤原先輩の言葉に、教室の空気がピシッと凍りついた。
周囲の女子たちが「えっ、藤原先輩が星宮さんを!?」とざわめき始める。
当の結衣はというと、照れるわけでもなく、ヘラヘラと笑っていた。
「えー、私とですか? いやいや、私なんかと出たら先輩のファンクラブに暗殺されちゃいますよー」
「そんなことないよ。星宮さん、黙ってればすごく可愛いし、ノリもいいから絶対優勝できると思うんだ。どうかな?」
先輩は爽やかな笑顔で、結衣の頭をポンと撫でた。

その瞬間。
俺の胸の奥で、ドス黒い何かがボワッと燃え上がった。
「……っ!」
ガムテープを握る手に、ギリッと力が入る。
なんだ、この感情は。
イライラする。無性に腹が立つ。
結衣が他の男に頭を撫でられている。他の男と親しげに話している。
たったそれだけのことが、どうしようもなく気に入らない。

「えー、どうしよっかなー。面白そうですけど、私、お化け屋敷の受付もやらなきゃいけないし……」
結衣が迷っているのを見て、俺の体は勝手に動いていた。
「わりぃ先輩。こいつ、俺と買い出し行く約束してて。時間ないんすよ」
気がつけば、俺は結衣と藤原先輩の間に割り込むように立っていた。
「え? あ、湊! そうそう、ちょっと用事があってさー!」
結衣は空気を読んだのか、俺の言葉に合わせて話を合わせてくれた。
藤原先輩は少し驚いたような顔をしたが、すぐに爽やかな笑顔に戻った。
「そっか、相沢くんと約束してたんだね。ごめんごめん、引き止めちゃって。星宮さん、コンテストの件、また後で返事聞かせてよ」
「あ、はい! すみません!」
先輩が教室を去っていくのを見届けてから、俺は結衣の腕を掴んで廊下へと引っ張り出した。

「ちょっ、痛いって湊! なに引っ張ってんだよ!」
廊下の隅まで来て、俺は結衣の腕をパッと離した。
「……お前、あんなのにホイホイついていくなよ」
俺の声は、自分でも驚くほど低く、棘があった。
結衣は目を丸くして、俺の顔を覗き込んできた。
「なんだよ、怒ってんのか? 別について行くなんて言ってないだろ。適当に断ろうと思ってたのに」
「断るつもりだったなら、あんなヘラヘラ笑って頭撫でられてんじゃねーよ!」
「はぁ!? 別にいいだろ、先輩なんだし! なんだよお前、もしかして……妬いてんのかー?」
結衣はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて、俺の脇腹をつついてきた。

「……は? 違うし!」
俺は慌てて結衣の手を払いのけた。
「俺は! お前が騙されそうだから、親友として心配してやってんだよ! ああいう爽やかイケメンは、裏で何考えてるかわかんねぇんだからな!」
「なんだよそれ、過保護なオカンかよ! 大丈夫だっつーの、私に隙なんてないから!」
「お前は隙だらけなんだよ! 少しは警戒心持て、このバカ!」
「バカって言った方がバカなんだよーだ! バーカ!」

いつものように言い合いになり、結衣は「買い出し行くぞ!」とスタスタ歩き出してしまった。
その後ろ姿を見つめながら、俺は自分の胸ぐらをギュッと掴んだ。
心臓が、嫌なリズムでバクバクと鳴っている。

親友としての心配?
嘘だ。俺はあんなイケメン先輩に、結衣をとられるのが嫌だっただけだ。
「俺だけの親友」でいてほしかった。俺の隣で、ずっとくだらないことで笑っていてほしかった。
でも、それって本当に「親友」に対する感情なのか?
俺は、嫉妬というドロドロとした感情に、気づかないふりをするしかなかった。
この関係を壊すのが、何よりも恐ろしかったからだ。


【第5章】「俺たち、もしかして……」という遅すぎる気づき

冬の寒さが本格的になり、街中が赤と緑のイルミネーションで彩られる季節。
世間はクリスマスムード一色だが、俺たちにとっては「ただの12月24日」でしかなかった。

「クリスマス? 何それ美味しいの? 俺たちはソシャゲのクリスマス限定イベント周回で忙しいんだよ!」
「その通り! 聖夜にカップルがイチャイチャしている間に、私たちは経験値と限定ドロップアイテムを荒稼ぎするのだ! これぞ勝者の選択!」
ファミレスのボックス席で、俺たちはフライドポテトをつまみながら、スマホの画面を必死にタップしていた。
周囲の席には、楽しそうに談笑するカップルばかり。
制服姿でゲームに没頭している俺たちは、明らかに浮いていた。

「よし、ボス討伐完了! 湊、お前のサポート魔法遅いぞ!」
「うるせぇ、こっちもMP管理で必死なんだよ! ほら、ポテト冷める前に食え」
「おっ、サンキュ」
結衣はポテトを口に放り込みながら、窓の外のイルミネーションに目をやった。
「……でもさ、たまにはああいうのも悪くないかもな」
「ん? ああいうのって?」
「イルミネーション見て、ケーキ食べて、プレゼント交換して……みたいな? 乙女の憧れってやつ?」
結衣が頬杖をつきながら、少しだけ寂しそうに笑った。
その表情が、いつものガサツな結衣とは違って、妙に大人びて見えた。

「お前、乙女だったのか」
「ぶっ飛ばすぞ。一応女子高生やってんだよ、私だって」
「……まぁ、来年は彼氏でも作って、そういうことすればいいんじゃねーの」
俺が何気なくそう言うと、結衣の動きがピタッと止まった。
「……湊は、どうなの?」
「は?」
「湊は、彼女とか……作らないの?」
結衣の目が、スマホの画面から離れて、真っ直ぐに俺を捉えた。
その瞳の奥に、何かを探るような光が見えて、俺はドギマギして視線を逸らした。
「俺は……別に。今はゲームとか、お前とバカやってる方が楽しいし」
「……そっか。ふーん」
結衣は小さく息を吐き、再びスマホに視線を戻した。
その横顔が、なぜかとても遠く感じられた。

ファミレスを出て、駅に向かって歩く帰り道。
冷たい北風が吹きつけ、結衣が「寒っ!」と身を縮こませた。
彼女は手袋を忘れたらしく、両手をこすり合わせて息を吹きかけている。
「お前、マフラーもしてこなかったのかよ。バカか」
「うるさいな、昼間は暖かかったんだよ! まさかこんなに冷え込むとは……」
俺はため息をつき、首に巻いていた自分のマフラーを外した。
そして、結衣の後ろから、その首にグルッとマフラーを巻きつけた。

「……え?」
結衣が驚いて振り返る。
俺のマフラーに顔の半分を埋めた結衣は、目を丸くして俺を見上げていた。
「……サンキュ」
「べ、別に。お前が風邪引いて、明日のゲームのログインボーナス逃したら困るからな。足手まといになんじゃねーぞ」
「なんだよそれ……素直じゃないなぁ、湊は」
結衣はマフラーに顔を埋めたまま、くすっと笑った。
街灯の光に照らされたその頬は、寒さのせいか、それとも別の理由か、ほんのりと赤く染まっていた。
その顔を見た瞬間、俺の心臓が、今までで一番大きな音を立てて跳ねた。

――可愛い。
心の底から、そう思ってしまった。

家に帰り、ベッドに倒れ込んだ俺は、枕に顔を押し付けて悶絶していた。
「あーっ! クソッ、なんだよ俺! なんであいつにドキドキしてんだよ!」
親友だ。戦友だ。最高のダチだ。
ずっとそう言い聞かせてきた。
でも、違う。もう、ごまかしきれない。
俺は、星宮結衣という一人の女の子が……好きなんだ。

いつからだろう。
出会ったあの日、焼きそばパンとお好み焼きパンで言い争った時からか。
一緒にバカみたいに笑い合っているうちに、少しずつ惹かれていったのか。
他の男と話しているのを見て嫉妬したあの時から、確信に変わっていたのか。

「……好きだ」
口に出してみると、その言葉は恐ろしいほどの重みを持って、俺の胸にのしかかってきた。
もし、この気持ちを伝えたら。
「お前、バカじゃないの? 私たちはダチだろ?」と笑い飛ばされるかもしれない。
最悪の場合、今の「最高の親友」という関係すら壊れてしまうかもしれない。
それが怖くて、俺はずっと「親友」という言葉を盾にして、自分の気持ちから逃げていたんだ。

同じ頃、結衣の部屋でも。
結衣は湊から借りたマフラーを抱きしめながら、ベッドの上で足をバタバタさせていた。
「あーもう! 湊のバカ! あんなことされたら、勘違いしちゃうじゃんか……!」
結衣の顔は、マフラーの匂いと湊の体温を思い出して、真っ赤に茹で上がっていた。
「ダチだろ……私たちは、最高のダチなんだから……」
自分に言い聞かせるようにつぶやく結衣の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
二人はお互いに、同じ気持ちを抱えながら、臆病になっていた。
「親友」という強すぎる絆が、皮肉にも二人の恋心を縛り付けていたのだ。


【第6章】最高のダチから、たった一人の特別へ

年が明け、お正月。
俺たちは地元の神社へ、初詣に行く約束をしていた。
「おせーな、あいつ。寒りぃ……」
神社の鳥居の前で、吐く息を白くしながら待っていると、人混みの中から聞き慣れた声がした。
「おーい! 湊ー!」
振り返った俺は、言葉を失った。
パタパタと小走りで近づいてきた結衣は、いつもとは違う、鮮やかな赤い着物姿だったのだ。
髪も綺麗にアップにまとめられ、少しだけ化粧もしている。
普段のガサツな「粉もん女」の面影はどこにもなく、そこには息を呑むほど美しい、一人の少女が立っていた。

「……ど、どうよ? 私の艶姿! お母さんに無理やり着せられたんだけど、苦しくて死にそう!」
結衣は少し照れくさそうに、着物の袖を広げて見せた。
俺は心臓が口から飛び出そうになるのを必死に抑え込み、なんとか声を出した。
「……悪くねぇよ」
「なんだよその反応! もっとこう、『結衣、お前綺麗だよ!』とか『惚れ直しちゃうぜ!』とかあるだろ!」
「うるせー! お前みたいな中身ゴリラの着物姿なんて、馬子にも衣装ってやつだ!」
「誰がゴリラだ! この野郎、お年玉没収の刑だ!」

いつものように言い合いながら、境内の列に並ぶ。
しかし、正月三が日の神社は凄まじい人混みだった。
後ろから押され、結衣がバランスを崩してよろける。
「おっと……危なっ」
「おい、大丈夫か?」
俺は咄嗟に、結衣の手をガシッと掴んだ。
「……あ、サンキュ」
結衣は俺の手を見つめ、少し顔を赤くした。
俺も、自分が結衣の小さな手を握っていることに気づき、慌てて離そうとした。
しかし、結衣の手が、俺の手をギュッと握り返してきたのだ。

「……はぐれそうだから。このままで、いいか?」
結衣が下を向いたまま、小さな声で言う。
その声は、震えていた。
「……おう。はぐれたら面倒だからな」
俺たちは手を繋いだまま、無言で歩き続けた。
心臓の音が、神社の太鼓の音よりも大きく響いているような気がした。

参拝を終え、俺たちは人混みを避けて、境内の裏手にある静かな雑木林の道へと抜けた。
冬の澄んだ空気が心地よく、二人の足音だけが落ち葉を踏む音を立てている。
繋いだ手は、まだ離していない。

「……なぁ、結衣」
俺は、足を止めた。
このまま、この関係を続けることはもうできない。
俺は覚悟を決めた。
「ん? どうした?」
結衣が不思議そうに振り返る。

「俺たち、ずっと『最高のダチ』って言ってきたけどさ」
俺の真剣な声のトーンに、結衣も空気を察したのか、少し緊張した表情になった。
「……うん」
「俺、お前のこと……ダチ以上の存在として、好きになっちまったみたいだ」
静かな林の中に、俺の言葉が吸い込まれていく。
結衣の目が、限界まで丸く見開かれた。
「……え?」
「お前と一緒にいるのが一番楽しい。他の男と話してるのを見ると腹が立つ。お前の笑顔を、ずっと俺の隣で見させてほしい。……俺と、付き合ってくれ」

沈黙が落ちた。
結衣は俯き、プルプルと肩を震わせている。
フラれたか。
「親友」という関係まで壊してしまったのか。
俺が絶望しかけたその時。

「……っはは! あはははは!」
結衣が、突然顔を上げて大爆笑し始めた。
「え? おい、なに笑って……」
「遅い! 遅いよ、湊!」
結衣は笑い涙を拭いながら、俺を指差した。
「私の方が、ずっとずっと前からお前のこと好きだったんだよ! この鈍感野郎!」
「……はぁ!?」
「バカ! 私がどれだけお前にアピールしてたと思ってんだ! 部屋に泊まった時も、クリスマスの時も! お前が全然気づかないから、私がどれだけヤキモキしたか!」
結衣は俺の胸をポカポカと叩きながら、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「知るか! お前の態度が男らしすぎるから勘違いしてたんだろうが!」
「乙女心に気づかないお前が悪い! この焼きそば頭!」
「誰が焼きそばだ! お前こそ粉もんのくせに!」

言い合いながら、俺たちはどちらからともなく、お互いのおでこをコツンとぶつけ合った。
「……ホント、バカだな、俺たち」
「ああ、バカだよ。世界で一番バカなカップルの誕生だな」
結衣が、満面の笑みで俺を見上げた。
俺はそのまま、結衣の手を強く握り直した。
「親友」という殻を破り、俺たちはついに、たった一人の「特別」になったのだ。


【第7章】エピローグ編 — 「親友」のまま恋人になった二人の、新しい関係の始まり

春が来て、俺たちは高校3年生に進級した。
桜が舞い散る通学路を、俺と結衣は二人で歩いている。

「あー、今日のお昼は購買の唐揚げパンにしようかな。湊、ダッシュで買いに行け」
「パシリにすんな! ていうかお前、また炭水化物に脂質を挟む気か! デブるぞ!」
「やかましい! 成長期だからカロリーゼロなんだよ!」
「どんな理屈だよ!」
相変わらずの、息をするような漫才。
俺たちが恋人同士になったからといって、このノリが急に甘々になるわけがなかった。

教室に入ると、委員長の佐々木がニヤニヤしながら近づいてきた。
「相沢くん、星宮さん。聞いたわよー? ついに付き合い始めたんだって?」
「ゲッ、なんで知って……」
「あんたたち、隠す気ゼロでしょ。お弁当のおかず奪い合うのは相変わらずだけど、最近妙に距離近かったし。周りはみんな『やっとか』って言ってるわよ」
佐々木の言葉に、クラスメイトたちが一斉にウンウンと頷く。
「お前ら、絶対付き合ってるだろって最初から思ってたぜ!」
男子の一人がからかうように言うと、俺と結衣は顔を見合わせた。

「まぁ……恋人にはなったけどな。でも、俺たちの『親友』としてのノリは変わらねぇよ」
俺が言うと、結衣もドヤ顔で腕を組んだ。
「当然! 湊は私の最高の彼氏で、最高のダチだからな! 恋人になったからって、格ゲーで手加減してやるとか思わないことだ!」
「望むところだ! 今日こそお前をボコボコにしてやる!」
俺たちのやり取りに、クラス中が「相変わらずだな」と呆れたような笑い声を上げた。

放課後。
いつものようにゲーセンで対戦し(結果は俺の負けだった)、夕暮れの帰り道を二人で歩く。
結衣は肉まんを頬張りながら、「お前、ガードが甘いんだよ」とダメ出しをしてくる。
「うるせぇ、次は勝つ」
「100年早いね。……ほら、一口食うか?」
結衣が差し出してきた肉まんを、俺はパクッと一口で半分以上食べてやった。
「あーっ! お前、食いすぎだろ! 私の肉まんが!」
「半分くれたんだから文句言うな!」
ギャーギャーと騒ぎながら、俺たちは川沿いの道を歩く。

ふと、結衣の歩みが少し遅くなった。
「……湊」
「ん?」
結衣は肉まんの包み紙をゴミ箱に捨てると、少しモジモジしながら、俺の右手の小指をキュッと握ってきた。
「……なんだよ」
「いや……その。恋人、なんだからさ。手くらい、繋いでもいいだろ」
結衣はそっぽを向きながら、耳まで真っ赤にしている。
さっきまでの威勢の良さはどこへやら、完全に「乙女」の顔だった。

「……お前、ホントそういうとこズルいよな」
「は? なにが」
「なんでもねーよ」
俺はため息をつきながら、結衣の小さな手を、自分の大きな手でしっかりと包み込んだ。
「……あったかいな」
結衣が嬉しそうに微笑む。
「お前の手が冷たすぎるんだよ。ほら、転ばないようにちゃんと握っとけよ、相棒」
「言われなくても、絶対離さないからな。……大好きだよ、湊」
「……俺もだ、結衣」

夕日に照らされた二人の影が、長く伸びて重なり合う。
俺たちは、これからもずっと言い合いをして、弁当のおかずを奪い合い、ゲームで熱くなるだろう。
最高に気が合う親友(ダチ)として。
そして、世界で一番イチャイチャしている、最高の恋人として。

俺たちの勘違いから始まった青春ラブコメは、どうやら最高のハッピーエンドを迎えたらしい。

――俺たち、絶対に付き合ってないからな!
いや、今はもう、胸を張って言える。

「俺たちは、最高に気が合う『親友』カップルだ!!」


(※全7章 完結)